セラピースペース ながしま
良い病院は、誰の犠牲によって成り立っているのか
― 医療職の熱意と、医療制度の抱える矛盾 ―
先日、千葉県の病院で、看護師が患者を無断で撮影し、不適切な内容をSNSに投稿するという事件がありました。
このニュースを見て、以前、コンビニでおでんのシラタキを口に入れて出す動画で問題になった事件〜いわゆるバイトテロを思い出した方もおられるのではないでしょうか。
今回の事件は周囲への配慮を欠いた行為を、面白半分にSNSへ投稿するという点では共通しています。
今回の行為は、患者のプライバシーや尊厳を傷つけるものであり、医療職として許されるものではありません。
ただ、私はこの事件を知って、もう少し別のことも考えていました。
それは、現在の医療制度が、優秀で熱意のある医療職を育て、その熱意を失わずに働き続けられる仕組みになっているのだろうか、という問題です。
良い病院を支えているもの
世の中には「良い病院」と評価される医療機関があります。
私は長年、病院で作業療法士として勤務してきましたが、そうした病院の背景には、職員の熱意と、ある程度の自己犠牲が存在しているのではないかと思っています。
もちろん、自己犠牲を強いることが正しいという意味ではありません。
しかし、患者のために必要だと思えば、決められた業務以上のことをしたくなる。もっと勉強したい、もっと良い方法を考えたい。
そうした専門職としての自発的な行動が、医療の質を支えている面は確かにあると思うのです。
医療の質より、仕事の量が評価される?
現在の日本の医療は、基本的に診療報酬制度によって成り立っています。
例えば、リハビリテーションでは、一定の時間を1単位として診療報酬が計算されます。
熟練した療法士が患者の問題を的確に捉えて介入しても、経験の浅い療法士が決められた運動を繰り返しても、同じ区分のリハビリテーションであれば、基本的に同じ単位数として計算されます。
つまり、専門的な判断の質が、そのまま収益に反映されるわけではありません。
看護でも、病棟に配置される看護師の人数などが、診療報酬上の重要な条件になっています。
しかし、患者の小さな変化に気づく能力や、優れた判断力、患者への関わり方などは、人数だけでは評価できません。
医療の質を決めるのは、単に何人の患者を担当したか、何時間働いたかということではないはずです。
ところが病院経営では、どうしても数値化できるものが重視されやすくなります。
少し乱暴な例えかもしれませんが、私は現在の医療制度には、病院をコンビニエンスストアのようにしてしまう危険性があると考えています。
コンビニとの類似性は、限られた人数でシフトを組み、決められた時間帯にサービスを止めずに提供し続ける仕組みにあると思います。
病院でも、診療報酬や施設基準を維持するために、必要な人数を確保し、業務を途切れさせないことが求められます。
誰かが休めば、別の誰かが穴を埋める。急な欠勤があれば勤務を変更し、人手が足りなければ残った職員が業務を引き受ける。
特に看護師の場合、病棟の人員配置を維持する必要があるため、希望どおりに休暇を取ることも難しくなります。
経営上、効率化は必要です。
しかし、それが行き過ぎると、職員は専門性を持つ人間というより、勤務表の空欄を埋めるための労働力として扱われかねません。
さらに、勤務時間外のカンファレンスや研修、適切に賃金が支払われない時間外労働なども、医療現場では問題になってきました。
本来、業務として義務づけられる活動は、適切に労働時間として扱われなければなりません。
それでも、患者のためだからと、自らの時間を使って頑張り続ける人がいます。
問題は、そうした職員の熱意や自己犠牲に頼らなければ、良い医療を維持することが難しくなっていないかということです。
病院が良い医療を提供しているかどうかを、何によって評価すればよいのでしょう。
患者数でしょうか。治療実績でしょうか。職員数でしょうか。
どれも必要な指標ですが、それだけでは不十分です。
優秀な人材を育て、専門職としての誇りを持ち続けられる環境をつくることも、医療の質を維持するうえで大切なはずです。
ところが、職員の熱意や専門性、患者に対する誠実さを数値で測定することは簡単ではありません。
測れないものは評価されにくい。そして、評価されにくいものには、経営資源が配分されにくくなる。
ここに現在の医療制度の大きな矛盾があるように思います。
医療職の熱意を使い捨てにしないために
今回のSNS事件が、こうした医療制度の問題によって起きたと断定することはできません。また、一部の職員の行為によって、病院全体の職員の質を判断することも適切ではないでしょう。
ただ、医療職個人の倫理観だけを問題にしていても、医療現場全体が抱える課題は解決しません。
必要なのは、熱意のある職員を集めることだけではなく、その熱意が失われない環境を整えることだと思います。
専門性を高めるための教育や、患者のために考える時間、十分な休息。そして、誰かが休んでも現場が回るだけの人員と、無理のない勤務体制。
そうした環境を整えることが、病院経営の負担として扱われるのではなく、良い医療を提供するための価値として評価される制度が必要なのではないでしょうか。
医療は、単に決められたサービスを一定時間提供すればよいというものではありません。
患者も医療職も、それぞれ異なる個性や価値観を持った人間です。
医療職の善意や自己犠牲によって良い医療が成立しているのだとすれば、それは誇らしいことであると同時に、制度として考え直さなければならない問題でもあると思うのです。
良い医療を提供するために必要なものが、きちんと評価される制度。
そして、誰かが休んでも、誰かが犠牲にならなくても、患者に必要な医療を提供できる勤務体制。
そんな医療制度へと変わっていくことを期待しています。
セラピースペースながしま
作業療法士 永島
| 名称 | セラピースペース ながしま |
|---|---|
| フリガナ | セラピースペース ナガシマ |
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| アクセス | JR安来駅より車で3分 |
| 電話番号 | 090-7548-8677 完全予約制。電話又はメール、ホームページからご予約下さい。※営業電話はご遠慮ください。 |
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| 開業日 | 2020年04月01日 |
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