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自分の身体を知ることは、環境を知ること ― 視床と身体図式のお話

セラピースペース ながしま

私たちは、普段あまり意識することなく、歩いたり、寝返りをしたり、物を手に取ったりしています。

しかし、こうした何気ない動作を行うために、脳は実に複雑な情報処理を行っています。

今回は、脳卒中後のリハビリテーションに関係する「視床」と「身体図式」というものについて、少し専門的なお話をしてみたいと思います。

私たちは、自分自身を通して世界を知っている

以前、身体認知についての資料を作ったとき、こんなことを書きました。

「私がいなければ、そこに木々があることも、ひんやりしたせせらぎがあることも、やわらかな風が吹いていることも、何も知覚されない」

これは、私がいなければ木々や川が存在しないという意味ではありません。

私たちは、自分自身の感覚を通してしか、周囲の環境を知ることができないという意味です。

例えば、床の上に立っているとき、私たちは足の裏に加わる圧力や、身体に働く重力、関節や筋肉からの情報などによって、自分が立っていることを知っています。

同時に、その情報は、床が自分の身体を支えているという環境についての情報でもあります。

つまり、身体を知ることと、環境を知ることは、切り離せない関係にあります。

私たちは環境との関係の中で自分自身の状態を知り、自分自身の状態を通して環境を知っているのです。

身体図式とは何でしょうか?

目を閉じていても、自分の手足がどこにあるのか、ある程度わかります。

また、寝返りをするときに、手足をどの順番で動かし、どこに体重を移動させるのか、いちいち意識して考えることはありません。

こうした運動を可能にする仕組みの一つが、**身体図式(Body Schema)**です。

身体図式とは、身体各部の位置関係や動きについての情報を統合し、運動制御に利用するための身体の表象です。

身体図式の形成や更新には、さまざまな情報が関係しています。

例えば、視覚、皮膚からの触覚や圧覚、筋肉や関節からの位置覚・運動覚、前庭感覚などです。

さらに、自分がどのように身体を動かそうとしているのかという運動指令や、その結果として生じる感覚情報も重要になります。

これらの情報は、それぞれ独立して存在しているだけではありません。

身体全体の位置関係や、周囲の環境との関係の中で、意味を持った情報として利用されます。

例えば、手のひらに圧力を感じたとしても、それだけでは自分がどのような姿勢を取っているのかわかりません。

しかし、肩や肘の角度、身体の傾き、重力の方向などの情報が組み合わされることで、床に手をついて身体を支えているという状態を把握できます。

身体図式は、こうした感覚と運動の経験によって、絶えず更新されていると考えられています。

視床は、単なる感覚の中継点ではありません

脳の深いところにある視床は、感覚情報を大脳皮質へ伝える重要な役割を持っています。

視床の一部が損傷すると、反対側の手足に感覚障害が生じることがあります。

しかし、視床は単に感覚情報を通過させるだけの組織ではありません。

視床には多くの神経核が存在し、大脳皮質や基底核、小脳などと複雑な神経ネットワークを形成しています。

例えば、基底核―視床―大脳皮質の回路は、運動の選択や調整、習慣化された行動などに関係しています。

また、身体からの感覚情報は視床を経由して大脳皮質に伝わり、頭頂連合野などを含むネットワークで、身体の位置や動きの把握に利用されます。

特に、上頭頂小葉や下頭頂小葉を含む頭頂葉の領域は、視覚、体性感覚、前庭感覚などを利用した身体や空間の認識に重要な役割を持っています。

したがって、視床損傷による問題を考えるときには、感覚障害だけでなく、感覚情報を利用して身体の状態を把握し、運動を組み立てる機能にも注目する必要があります。

ただし、視床のどの部分が損傷したのかによって影響を受ける神経回路は異なります。すべての視床損傷で同じ問題が生じるわけではありません。

歩けるのに、寝返りや四つ這いが難しいのはなぜでしょう?

脳卒中後の方の中には、杖や装具を利用すれば歩行できるのに、普段と違う方法で寝返りをしたり、四つ這いになったりすることが難しい方がおられます。

いつも行っている運動はできても、身体の動かし方を少し変更すると、どう動けばよいのかわからなくなることがあるのです。

これには、さまざまな理由が考えられます。

慣れた運動では、これまでに獲得してきた運動パターンを利用できます。

一方、普段とは違う動きでは、身体各部の位置関係や荷重の変化を把握しながら、新しい運動の組み合わせを作る必要があります。

感覚障害によって身体の状態を把握するための情報が不確かになっていたり、身体図式の更新に問題が生じていたりすると、このような運動が難しくなる可能性があります。

また、基底核―視床―皮質回路など、運動の選択や切り替えに関係するネットワークの問題も考慮する必要があります。

つまり、歩けるということだけで、身体をさまざまな状況に応じて自由に使えるとは限らないのです。

身体の動きが改善しても、その変化がわからないことがある

リハビリテーションを行っていると、身体の動きが改善しているにもかかわらず、ご本人にはその変化が十分に実感できないことがあります。

例えば、歩行中に麻痺側の腕に生じていた過剰な緊張が軽減し、腕が自然に振れるようになってきたとします。

客観的には運動が変化しているのですが、ご本人には以前とあまり変わらないように感じられることがあります。

その背景には、感覚情報の不確実性や、身体の状態を推定する機能の問題などが関係している可能性があります。

私たちの脳は、運動を行う際に、その結果を予測し、実際に得られた感覚情報と照合しながら、運動を調整していると考えられています。

しかし、感覚障害などによって実際の運動結果を十分に把握できなければ、身体の変化を認識することも難しくなるかもしれません。

ここで、もう一つ知っておきたい概念があります。

それが、**身体イメージ(Body Image)**です。

身体図式が主として運動制御に利用される身体の表象であるのに対し、身体イメージは、自分の身体について意識的に知覚し、認識する側面を含んでいます。

両者は密接に関係していますが、同じものではありません。

したがって、実際の運動が改善することと、その改善を自分自身で認識することが、必ずしも一致するとは限らないのです。

なお、こうした現象をすべて身体図式の問題だけで説明できるわけではありません。注意や認知機能、以前の身体との比較なども関係すると考えられます。

なぜ、四つ這いやしゃがむ姿勢を練習するのでしょうか?

当施設では、歩行が可能な方であっても、寝返りや起き上がり、四つ這い、しゃがむ動作など、さまざまな姿勢や運動を経験していただくことがあります。

それは、単に筋力を強くするためでも、歩行練習の代わりというわけでもありません。

例えば、四つ這いでは、両手と両膝で床を支えながら、肩や肘、股関節、膝などの位置関係を変えることができます。

その際、手足に加わる圧力や関節の角度、身体の傾きなど、複数の感覚情報が同時に変化します。

しゃがむ姿勢でも同様に、立位歩行とは異なる関節の組み合わせや荷重を経験できます。

ここで重要なのは、それぞれの関節や感覚を単独で考えるのではなく、身体全体と環境との関係として捉えることです。

例えば、四つ這いで右手に体重を移動させると、右手の圧力だけでなく、体幹や骨盤、反対側の手足に加わる荷重も変化します。

一つの運動によって、身体全体と床との関係が変わるのです。

左右対称に近い姿勢や、左右交互の運動を利用することもあります。

こうした経験を通して、身体各部の位置関係や荷重の変化を、まとまりのある情報として利用できるようになることを期待しています。

私は、これらの経験が身体図式の更新や、感覚情報を利用した運動制御の再学習に役立つのではないかと考えています。

もちろん、特定の姿勢や運動によって身体図式が直接改善するという因果関係が、十分に証明されているわけではありません。

だからこそ、実際の運動の変化を観察しながら、仮説を検証し、介入方法を調整していくことが大切だと考えています。

リハビリテーションは、身体と環境の関係を取り戻す過程

私たちは、自分自身の身体を通して環境を知っています。

そして、環境との関係を通して、自分自身の身体の状態を知っています。

床に手をつくことも、立ち上がることも、歩くことも、身体と環境との相互作用です。

そのため、身体の感覚や運動制御に問題が生じると、単に手足が動かしにくくなるだけではなく、環境との関わり方そのものが変化する可能性があります。

リハビリテーションでは、筋力や関節可動域、歩行速度など、目に見える能力の改善が重要です。

しかし、それと同時に、身体が環境とどのように関わり、その関係をどのように認識しているのかという視点も必要だと思います。

さまざまな姿勢を取り、身体を動かし、環境との関係を経験する。

それは、身体を知ることであると同時に、環境を知ることでもあります。

そして、身体の状態が変化すれば、環境との関わり方も変わっていきます。

私は、リハビリテーションとは、身体と環境の関係を再び探索し、自分自身の可能性を広げていく過程でもあると考えています。

詳細ボタンに身体認知に関わる動画をリンクしておきますね。


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基本情報

名称セラピースペース ながしま
フリガナセラピースペース ナガシマ
住所692-0011 安来市安来町1622-2
アクセスJR安来駅より車で3分
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開業日2020年04月01日
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