ブリッジ・オブ・スパイ

【スタッフ】
監督：スティーヴン・スピルバーグ
脚本：ジョエル＆イーサン・コーエン

【キャスト】トム・ハンクス

スティーヴン・スピルバーグ『シンドラーのリスト』×トム・ハンクス『フォレスト・ガンプ/一期一会』×コーエン兄弟『ノーカントリー』

アカデミー賞 受賞のスタッフ＆キャストが贈る真実に基づく奇跡の物語。
ハリウッドきってのヒットメーカーの地位に君臨し、アカデミー賞の監督賞に二度輝いたスティーヴン・スピルバーグ。アカデミー賞の主演男優賞を2年連続で受賞したトム・ハンクス。世界の映画ファンから最も愛される巨匠と最も尊敬される名優の最高傑作の呼び声が高い4本目の作品が誕生した。脚本を手掛けたのは、『ファーゴ』と『ノーカントリー』で4つのオスカーを手にしたコーエン兄弟。まさにドリームチームによって作られた『ブリッジ・オブ・スパイ』は、2015年度のアカデミー賞に最も近い話題のエンターテイメント大作。

アメリカとソ連が冷戦状態にあった1957年、ソ連のスパイ、ルドルフ・アベル（マーク・ライランス）がニューヨークでＦＢＩに逮捕された。厳しい尋問を受けても協力を拒否する彼の弁護人に選ばれたのは保険法が専門の弁護士ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)。敵国のスパイを弁護すれば、彼自身はおろか家族までが命の危険にさらされるかもしれない中で、妻の反対を押し切って彼は弁護を引き受ける。その5年後、米軍の偵察機Ｕ－２がソ連の領空で偵察任務中に撃墜され、パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズ（オースティン・ストウェル）が拘束され10年の刑を言い渡される。パワーズから機密が漏れることを恐れたＣＩＡは密かにパワーズとアベルの交換を画策し、その重大任務にドノヴァンを起用する。交渉の地はまさに鉄のカーテンが敷かれようとしている東ベルリン。未知の世界に足を踏み入れるドノヴァンを待ち受けていたのは、予想以上の危険と困難だった。

映画ファンなら知らない人はいない大ヒットメーカー、スティーヴン・スピルバーグとハリウッドのトップスター、トム・ハンクスが再びタッグを組んだ最新作。彼らが4作目に選んだテーマは、冷戦時に実際に起きたスパイ交換事件だ。そのうえ、脚本がコーエン兄弟ときたら絶対見逃せない！　期待に胸を膨らませてワクワクしながら鑑賞したが、その期待に十分すぎるほど応えてくれた。142分という時間がまったく気にならないほど、スリリングなストーリー展開と映像に最初から最後までぐいぐいと引き込まれた。

トム・ハンクスの演技はもちろん素晴らしいが、俳優陣の中で特に際立っていたのは、ソ連のスパイ、アベルを演じたマーク・ライランスだ。彼はイギリスの実力派俳優で舞台を中心に活躍しているため出演した映画作品はあまりないが、その演技の素晴らしさに感動したスピルバーグ監督がこの作品に抜擢したそうだ。彼のいぶし銀のような深くて渋い演技の前ではハンクスの影が薄くなるほどだった。それが評価されて、12月にニューヨーク映画批評家協会賞の助演男優賞を受賞している。スピルバーグ監督の次回作「ＴＨＥ　ＢＦＧ」にも出演が決まっているそうだ。

ドノヴァンがこの危険な弁護を引き受けたのは、「どんな人間にも等しく公平な裁判を受ける権利がある」とう強い信念があったからだ。ソ連スパイのアベルとの交流の中で、ふたりは互いへの理解と尊敬を深めていく。そのやり取りが実に素晴らしかった。

その後、ソ連軍に撃墜されて捕えられたアメリカ人パイロットとアベルのスパイ交換の交渉が始まるが、その場所は今まさにベルリンの壁が築かれようとしている東ドイツ。戦争で荒れ果てた街と身も心もすさんだ人々に囲まれ危険に身をさらされながらも、ドノヴァンはたった一人でその任務に突き進む。だが、その交渉は東ドイツに捕えられたアメリカ人学生が加わったことで、二転三転し困難を極めていく。

「ブリッジ・オブ・スパイ」のブリッジとは、多くの人質交換に使われた東西ドイツを分断する「グリーニカー橋」のことである。この橋の上で繰り広げられるクライマックス・シーンには感動で体が震えた。

ひとりの普通の男が自分の信念と正義を貫くために立ち上がり、平和のために戦った史実にもとづく物語。不屈の男の生きざまにたくさんの勇気をもらった。

Text by YUMI